Photo credit: benjaflynn on VisualHunt
もうこの世にいないみたいに
あなたは遠くに行ってしまった
僕はまるで今来たみたいに
世界に馴染めないでいる
それでも川や花や風や鳥を見る
苦しい心を抱えたままで
救いはなくましてや喜びはない
見るものすべてが針になって心臓を刺す
あなたの言葉を反芻するのはやめた
そのたびに血を流してしまうから
なにごともなかったような顔をして
川向うの砂の壁を見つめて歩こう
あの日見とれた輝く月も
静かに憧れた湖の底も
もうなんでもない
死ぬときに突っ伏すのは
浅い泥の水たまりだ
もうまとまったことは考えられない
ただただこの瞬間をしのぐだけ
時が過ぎ世界が終わるのを待ちわびて
息をひそめ泣くこともない
丘に登り西を見ると
空は広く黒い帳をおろす
赤い輝きにはわずかなビルの影
ぶんっと風が吹いて
僕は瞼を閉じる
あなたはいない
あなたはいない
あなたはいない
あなたはいないんだ
丘を下りながら
小径の分かれ道の向こう側を見る
草むらに似つかわしくない紙ごみと
何やら危なそうな瓦礫が折り重なって
来るな来るなと僕に話しかける
あの池の向こう側には精神病院が
右手の芝の先には動物の保護施設が
階段の上には献体した犯罪者の碑が
そしてここには呆けた男が
うつむいてぶつぶつ言っている
あなたはいない
あなたはいない
あなたはいない
あなたはいないんだ
もうすぐ僕はあなたを忘れる
気づいたときには瓦礫の上だ
雨が降れば石と砂の匂い
紙ごみが張り付いて動けない
あなたが見捨てたこの世界で
惨めさのすべてを味わい尽くす
美しさを破壊しつくして
聞こえない叫びだけがこだまする
わかるのは悲しいということだけ
悲しい
悲しい
悲しい
悲しいよ