ささくれ

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通りに出る

緩やかに下る道を底まで行けば

また上り坂になる

カーブで遅くなる車の後を

俺はスピードを変えないで走る

交差点では右折が詰まって

もう何回も信号が変わった

思わず出そうになった声を

俺は抑えてガムを噛んだ

 

 

透き通った空

誰も見ていないこの場所で

何者でもない青い顔のお前に言った

ああ俺は弱い

弱いんだ

 

 

唇がわなついて

うまくガムを吐き出せない

あなたのためにやめた煙草を

俺はまだ吸えずにいる

ああまた右折だ

対向車が途切れない

やっと信号が変わったのに

突っ込んでくる車がいる

ハンドルを切る手がこわばってる

 

 

暗いスロープ

前にはゆっくり行く軽自動車

あの角の陰に潜む土色の肌

俺を見るなよ見ないでくれ

ああ俺は弱い

そうだよ弱い

 

 

もしもこの街中に

ニホンオオカミが現われて

ゴミを漁っているなら

俺はこの身を食わせてやろう

アスファルトに突っ伏して

やつらの歯を感じる

弱いものは食われる運命だ

あの日から決まっていたことだ

 

 

 

喉にささるささくれが

お前たちに思い出させる

ほんのかすかにだが

俺は闘っていたのだと

でもああ今はもう

俺は弱い

弱いんだ

それ以外なにもない

 

 

 

喧噪の中で泣くこともできず

誰かに道を譲り

誰かにお礼を示し

通りに出てスピードを上げる

俺は何をしているのか

あなたは俺を捨てた

きれいに捨てるなんてできない

ゴミ屑のように投げるしかない

 

 

次々と車を追い抜き

ハイスピードでカーブを駆ける

停止線を守って

信号で停まる

何の意味がある

いったい何の

 

 

ああそうだよ

俺は弱い

だからなんだ

くそったれ