水底

Photo credit: Jonathan Miske on VisualHunt

 

 

 

誰も知らぬ水たまりの底

水面からの光は届かず

沈殿する悪意で腐臭がする

動くものはなく

誰かの声も届かない

 

 

僕はひとつだけ吐いた泡に

あなたの姿を映す

僕の灯りで白く浮かび上がり

慈愛に満ちた微笑で僕を見る

泡はどろりとした水の中を

ゆらゆらゆらとのぼっていく

はじけた瞬間あなたは消える

 

 

どうしてこうなったのか

すべては永遠に失われた

僕たちの美しい思い出も

もうあなたの中にはないのだろう

ふたりで見た月

遠い海の輝き

気持ちのいい風

咲き乱れる花

もうなにもない

 

 

僕はまたわずかに口を開ける

耐えられそうにない

ずっとここにいるなんて

あんまりだ

あんまりだよ

 

 

でも僕は

この水の底で

あなたのために祈る

悪意と暗闇に包まれながら

あなたが望まないとしても

あなたのために祈る

ただひとりで

祈る

朽ちるまで

朽ちるまで