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あなたが拾ったその木の実はとても殻が硬くてもう芽を出すことはない。その中心にいたるまで乾き、ほんのわずかに残る水気でかろうじて死んではいないといえるほどのものだった。あなたがポケットに入れてぎゅっと握りしめている間だけ、木の実は自分が生きていることを感じられた。あなたの手のぬくもりだけが、木の実とこの世界を繋いでいるのだった。
あなたがなぜ木の実を気に入ったのかはわからない。あなたは美しいと言い、触ると心地良いと言ったが、ざらざらの朽ちかかった姿はそれに見合わないように思えた。ただ木の実は、いつまでもあなたの手の中にいたいと思った。あなたの手が冷たくなるまで朽ちずにいようと誓った。
あなたのポケットには他にもいくつかのものがあった。それは可愛く儚いものたちだった。木の実はそれらを愛した。あなたを愛するように。あなたが彼らを愛でているとき、木の実はおとなしく順番を待った。順序などどうでも良かった、あなたの手の中にいられるのなら。
木の実はあなたを愛した。あなたが拾った日から、少しも変わらず愛し続けた。そのために、いつか朽ちかかった身体の中から芽を出したいと望んだ。ありえないことでもあなたの温もりの中にいればできると信じた。外から見れば変わらずざらざらと乾いているだけだったが、木の実は確かに「希望」を持っていた。あなたの手の中にある限り「希望」は失われない。
長い間木の実が暮らした暗がりをあなたは知らない。木の実にとってそれは忌むべき友だった。あなたに包まれて木の実は友との別れを誓った。
だが今、木の実は言う。
「わが友よ。俺はかつてお前を捨てた。お前よりもずっと弱い希望を友にして、残りの時間を過ごすつもりだった。あの人の手の中にいると、いつかお前を忘れようと、いつかは忘れられると、そう思えたのだ。だが今、死にながら生きることなど、お前なしにできるだろうか。お前は前よりも黒く深いのだろう。それでも俺にはお前しかいないのだ。」
そう、あなたは木の実を打ち捨てた。役立たずの朽ちかけた実に居場所がないのは無理もないことだった。あなたには他に可愛いものたちがいる。何より、あなた自身を守らなければならない。
あなたの手の中で、木の実はどんなに幸せだっただろう。きっとあなたはそれを良く知らない。彼の心の震えは、きっとあなたには伝わっていない。しかし、あなたの口にした奇跡を誰よりも信じていたのは彼だったのだ。
彼に残されたのは希望のない行き場のない愛だけだ。自分の捨てられた場所すらわからない。愛されていたことの記憶が彼を苦しめる。それを愛と呼ぶのかはわからない。だが彼は今でも愛だと信じている。あれほど美しく温かいものが他にあるだろうか。
そして木の実はつぶやく。
「友よ。私は彼女を愛している。だから私は泣かない。遠く離れても、彼女が俺を忘れても、俺は彼女を愛し続ける。あの美しい息が止まる時のために涙はとっておく。それが彼女との約束だから。友よ、その日まで、そばにいてくれ。前よりも深く黒い闇で、俺を凍らせてくれ。」
木の実は朽ちてしまうかもしれない。すでに生気は失われている。暗闇が彼を啄み連れ去るかもしれない。それでも愛は死んでいない。彼が死ぬまでの間は。
何も書きたくはない。
でも書かなければ気を失いそうだ。