美しい夜


Photo credit: sergei.gussev on VisualHunt.com / CC BY


月が丸い

昨夜は離れていた星が

今は傍にいる

あの日も月は出ていたのか

生暖かい風と潮の匂い

水面を渡る家路につく人の声

他に何もない公園で

僕らはベンチに座っていた


僕たちは同じことを何度も話して

互いの温もりさえ知らなかった

でも今はわかる

あの時僕らにはすべてがあった


帰らなければならないこと

遠く離れなければならないこと

そんなこと本当はなんでもなかった

港を行く船の汽笛

クレーンの遠慮がちな光

すべてがそこにあった


僕たちはそれからすべてを失う

本当の暗闇に放り投げられ

僕たちのものはなにひとつなくなる

離ればなれになって

どんなに手足をもがいても

何も触れるものはない


過去を消せるなら

あの美しい夜を僕は消す

なぜ間違ったのか

二度と考えなくてもよいように

怖いのは永遠の無ではない

纏わり付くタールのような悔いだ


あの時の僕らがまだそこにいるなら

僕は対岸から静かに言うだろう

帰らなくていい

どこにも行かなくていいんだと


でも僕はあまりにも愚かで

何度でも僕たちを溝(ドブ)に捨てるだろう

だから僕はあの美しい夜を消す

暗闇の中にいてもなお

深く沈むのは怖いのだ


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